忍者ブログ

11

1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
□    [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 彼女はふらふらと帰路を辿る。
 傾いた屋敷には人の気配が戻っていた。
 お疲れ様、と、心の中でだけ呟いて、顔を合わせることなく部屋へ向かう。
 避けたかったわけではなく。
 ただ、疲れていた。





 ただいま。
 唇だけで呟くと、彼女はベッドを通り過ぎ、鏡の前にたどり着くと、綺麗に並べられた二つの花の見つめる。
 青い色をした髪飾りにそっと触れ、それから、白い花冠を拾い上げ、ふわり、被る。
 鏡の中の、真っ黒な自分に混ざった、白。
 愛しげに微笑んで、もう一度、大切そうに元の場所に戻すと、さらりと肩を滑り落ちたショールを放り出して、ベッドに倒れこんだ。
 そうして、そのまま、泥のように眠って。

 目が、覚めた時には、もう、朝を迎えていた。
 戦勝祝いと銘打たれた闘技場の届けに、こっそりと名前を書き足して、ゆるゆると混ざった。
 眠りに落ちる前の、大きくて危険な戦いの記憶があるからだろうか。娯楽の一環として催されるその試合は、たまらなく、楽しかった。
 負けてしまいはしたけれど、それでも。
 来週は、久しぶりにチームを立ててみようか。ふと思案して、何の気なく、街角を訪れた。
 いまだ宴の名残を見せるその場所を、のんびりと眺め歩いて、戦いの最中に綴られた記録へと、目を通していく。
 知った名前が檄を綴るのを、遡って、遡って,遡って――。
 指が、止まった。

「うそ……」

 目が、丸くなった。
 とても、とても、覚えのある名前が目に留まり、そこに綴られた言葉を、何度も、何度も、繰り返した。
 呟き、なぞり、反芻して。へたり、と。その場に崩れた。
「どうしましょう……」
 何故だか胸が苦しい。感情があふれて止まらない。
 その少し下に、自分の名前。
 誰にとは言わず宛てた、言葉。
 言ってしまえば、逃げずにいられると思って。自分へ送る意味も篭めて、何気なく、綴った願い。
 逢いに――。
 どうしよう、と、唇が繰り返す。
 意味もなく、繰り返す。
 熱いのは頬か、体か、眦か。定かではないくらいに当惑した彼女は、それでも、律するように一度唇を噛み締めて。
 すくと立ち上がると、踵を返した。
 急くように、駆ける足は、今しがた歩いてきた道を――帰路を、辿っていった。
PR
Name

Title

Mailadress

URL

Font Color
Normal   White
Comment

Password
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

忍者ブログ/[PR]

Template by coconuts
プロフィール
HN:
喪と石
性別:
女性
職業:
エンドブレイカー
自己紹介:
喪:クニークルス。喪娘
石:センテリェオ。末子
飴と花も同背後。
裏舞台だけの、知り合い
リンク
カテゴリー
最新記事
アーカイブ