親愛なる婆様。
私は貴女を置いて空を知りました。力を得ました。
沢山の人と出会い、少しずつ、少しずつ、縁を結ぶことができました。
明日、初めての戦に向かいます。
諍い以上の争いに身を投じるのは初めてのことでしょう。
争うことに恐怖を感じる心は、貴女の傍にいた私にはありません。
それでも、貴女の傍で、忘れてしまっていたはずの恐怖が、覆い隠せません。
婆様。
私は、『 』なのでしょうか。
罵りを受けたことはありません。石を投げられたこともありません。
影から、囁く声には、貴女の手が耳を塞いでくれました。
物言わぬ眼差しには、貴女の言葉が幕を張ってくれました。
押し込んで、押し込んで、忘れたつもりでいられました。
思い出した、きっかけは。
今まで抱くことのなかった想い。
「特別」を、私は初めて知りました。
知り得ない、未知の感情への心地よさは、不安を駆り立てます。
私は、この手を伸ばしても、いいのでしょうか。
貴女は伝えてくれました。私の思うようにすればいいと。
例えば、思うままに。良かれと、願って。
誰かを失う結果を、望まぬままに手繰り寄せてしまったら。
私は、どうすれば、いいのでしょうか。
『 』
私は、明日、自分がそうでないことを、私の中で証明できたらと。
そう、願ってやみません。
日が昇る頃には、私の中の全ての憂いは払いましょう。
だって私は、誰かの憂いを払うために、刃を握るのだから。
親愛なる婆様。私はあなたを慕っています。
けれど、まだ。
貴女の元へは参りません。
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