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「団長さん、お出かけしない?」
にっこりと。穏やかで柔らかな笑顔を向けて、クニークルスは小鳥の囀りに似た優しい問いかけをした。
それは普段の彼女そのものの雰囲気で。ベリアスは一瞬だけ意外そうな顔をした後、同じように、普段どおりの笑みを浮かべて頷いた。
「勿論! 俺でいいなら、どこにでも付き合うぜ」
「まぁ、嬉しい。ふふ、こういうの、デートって言うのかしら」
「ははは、そうかもな!」
冗談めかしたような台詞を重ねて、ベリアスはやおら立ち上がる。
だが、そのまま身軽な姿で外に出ようとするのを、クニークルスが声を上げてとめた。
「団長さん、武器、忘れてるわ」
「ん? いるのか?」
「ふふ、いるかもしれないじゃない」
「そ、そうか? それじゃあ、持っていこうかな」
何故だろう、「かも」のはずなのに、告げる笑顔が確信めいているのは。
思わず、慌てて。武器をしっかりと握り締めたベリアスの腕に、するり、自分の腕を絡めて、クニークルスは颯爽と歩き出した。
「団長さん、早く早く」
「おいおい、そんなに急いでいくこともないだろ」
「のんびりしていたら、逃げられてしまうじゃない」
ふふ、と、笑みを零し、ベリアスを振り返るクニークルス。
その顔と、台詞とを重ね合わせて、ベリアスはふと、納得したように頷いた。
「ひょっとして、クニーがいつも行ってる狩りに行くのか? でかい獲物がいるんだな!」
「大きな獲物……ふふ、そうね、確かにとっても大きいわ」
「よっしゃ、それじゃあ今日はそいつを捕まえて、傾き荘でご馳走にしようぜ」
「あら、素敵ね」
やる気になったベリアスの姿が嬉しいのか、やはり柔らかい笑みを浮かべたクニークルスだが。
「でも食べられるのかしら、あれ」
ぽつりと、呟いた一瞬は、酷く静かな顔をしていた。
そのことに、ベリアスは気付いていない。
ひょっとしたら、気付いていたが、気付きたくなかったのかも、知れない……。
「く、クニークルスさん、どこ行くんでしたっけ?」
「狩りかしら」
やや重い足取り。原因は主にベリアスにある。
意気揚々と、知らない狩りへ向かうはずだったのに、辿る道は何故だか物凄く、とっても非常に覚えがあるのだ。
「な、何を狩るんでしたっけ」
「とっても大きな獲物だと思うわ」
質問に対し、曖昧な回答を、それでも淡々と繰り返すクニークルスは、振り向かない。
声音は弾んでいるが、しっかりと組んだ腕は、ベリアスを引きずるかのように力強い。
嫌な予感に、だらだらと冷や汗が流れるベリアス。
やがて質問と回答の応酬さえなくなり、無言の時間がいくらか過ぎた、頃。
「さぁ、着いたわ」
楽しみなことを前に気持ちが昂っているかのような、はしゃいだ声。
引き攣った顔をしたベリアスの視界に映ったのは、荒廃した町の情景。
それを、覆う、薔薇のような何か。
何故だか物凄く、とっても非常に覚えのある道を行った先にあったのは、ギガンティア、ベルベットガーデンであった。
しかもなんだか異様に禍々しい。
あれ、いつもこんなだっけ?
「く……クニークルスさん、これはいったい……」
ドウイウコトデゴザイマショウカ。
恐る恐る尋ねたベリアスに、クニークルスは一瞬、ほんの一瞬だけ、唇を鋭利な弧に吊り上げた。
「団長さん、この間、無茶してたじゃない?」
「してしまいました」
「それに比べたら、どうってことないと思うの。たかがギガンティアのレベル30くらい」
「たかが!?」
「ねぇ、知ってるかしら、団長さん」
緩く巻かれた髪が、ギガンティアから流れてきた風にふわりと持ち上がり、靡く。
それに隠されていた表情が、ダンジョンの禍々しさに宛てられたのか、はたまた彼女自身から何かが漏れ出ていたのか、異様に薄暗く見えて。
思わず息を呑んだベリアスに、クニークルスは、纏う雰囲気にはあまりに不釣合いの、満面の笑みを浮かべた。
「二人きりでギガンティアを制覇することを、デートって、呼ぶのよ」
括弧、私の中では。
「だから、楽しみましょう」
小鳥が囀るような、優しい、優しい声で。
囁かれたのは、死の宣告だった。
固まったベリアスを引きずって、クニークルスはやはり颯爽と、ギガンティアへと乗り込んだ。
「さぁ、思う存分無茶をするがいい」
突き飛ばすように前衛へと放り出したベリアスにそう告げた彼女の目は、笑ってはいなかったそうな……。
結局。第一層であえなく、あっさりと、物凄い勢いで撃沈したベリアスを、今度は支えるように腕を組んで。
少しだけ心配そうな顔をしたクニークルスは、帰路を行った。
「もうしない?」
「もうしません……」
「本当に?」
「しないって。だから――」
ちらりと。苦笑によく似た顔で、見やって。
「クニーも、するなよ」
囁くような、心底優しい声で、そう告げた。
驚いたように目を丸くしたのは、一瞬。
今度は、何の裏もない、本当の笑顔を満面に湛え、クニークルスは頷いた。
「勿論」
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以下の作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する
『エンドブレイカー!』の世界観を元に、
株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
イラストの使用権はクニークルスPLに、
著作権は各絵師様に、
全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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私、これでも怒ってるのよ。を、テーマに。
無茶は程ほどにしないとお仕置きしちゃうぞ。というね。
完全な捏造です。あの、その……すみませんベリアスさん(。ノノ)
ギガンティア二人旅をデートと読んでいるのは本気です。
さすがに30に手を出したことはありませんが。(笑
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