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まどろみはゆるく深く、沈みこみ。
脳裏に描いた懐かしい姿を追いかけるように、夢路を急いだ。
「お前さん、捨てられたのか」
 老婆の声がする、廃れきった街の薄暗い路地の裏。
 そこには、あまりに相応しい様相で、少女が一人、座り込んでいた。
 じっ、と老婆を見上げる少女の瞳は、老婆の言葉の意味を問うているようだった。
 見つめ返し、老婆はふむと呟いた。
「ならばわしが拾うてやろう。丁度娘が一人欲しいと思っていたところだ」
 つぃ、手に帯びていたカンテラの灯りを少女の上に掲げる。
 不意に照らし出されて、少女は金の瞳をかすかに細め、まぶしい、と主張するように手のひらを翳した。
「金の瞳に黒い髪、それと……あぁ、あぁ、いいぞ、本当に丁度いい。決めたぞ、わしはお前さんを拾う」
 じっと娘を見ていた老婆が、灯りを下げて、変わりに手を差し出してきた。
「さぁ、くるがいい」
 決めた、拾う。そう言い切っておきながら、その手のひらは何を強要するでもない。
 ただ、差し出されているだけ。
 少女はそれを見つめた。ただ、見つめた。
 それから、立ち上がった。
 黒い髪が、ゆらり、風もないのに揺らめいた気がした。
「むりだよ」
 老婆はほんのかすかに、目を剥いた。
 少女はただただ幼く、言葉を解するにはまだ至らぬと、そう思っていたから。
 だからこそ、差し出した手のひらはそのままに、警戒だけを滲ませた。
 そんな老婆を少女の瞳は監察するように見つめて。
 にぃ。口角を吊り上げただけの笑みを、浮かべた。
「このむすめはやくびょうがみだから」
 一言に、老婆は今度こそ、目を剥いた。丸く、丸く、呆気に取られたように。
 けれど、それから、不意に笑って、差し出していた手のひらで少女の頭を撫でた。
「知ってるとも」
 ぽん、ぽん、と。宥めるように、優しく撫でられる感覚に。
 少女は、先の老婆と同じように、目を丸くして、驚いた。
「知らぬわけもあるまいて。わしは『魔女』だ魔女は何でも知っているものさ」
「そんなこと、はじめてきいた」
「そうだろうとも。お前さんは何も知らない。知らなさ過ぎる。だから無理かどうかなんて、お前さんには判りゃしないんだよ」
 老婆は淡々と告げて、少女の目線まで屈みこんだ。
 影を作る白髪交じりの髪の下には、少女と同じ金の瞳があった。
「だから、お前さんは何も気にしなくていいんだよ」
 どこで拾ってきたのやら。そう呟いて、歪な笑顔を作った少女の頬を撫でた老婆は、その手を、再び少女の前に差し出した。
「さぁ。おいで」
 細い指は皺だらけで、けれど何故だか、カンテラの灯りよりもずっと、まぶしく見えて。
 少女は、それを主張するように瞳を細めて、それから、こくりと頷き手を取った。

 ――。
 薄ら。伏した瞼が持ち上げられ、金の瞳が天井を映す。
「…………」
 ぱく、と。唇がかすかに開いて、閉じる。
 ごろりと寝返りを打って、女は蹲った。
 目の前に広げた手のひらには、なにも、なかった。
「婆様、わしは、拾えなんだ」
 けれど。
「救えた、はずだ」
 言い聞かせるような言葉だと判っていても、信じていたかった。
「救えた、はずだ――」
 握り締めた手のひらには、確かに抱きしめた感覚が残っているのだから。
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