足を組み、机に頬杖をつき、苛立たしげに眉間に皺を寄せた男に、女はにこやかに微笑みかける。
「そんなに不満かしら。あなたが喜ぶかと思って、折角お菓子も用意したのに」
「知らないわけじゃねーだろ。俺は、別に与えられて喜ぶ性質じゃねーんだよ」
「ふふ、そうだったかしら。けれど連れてこられて何もないよりは、いいと思わないかしら」
男の不機嫌は意に介さず、お茶のお変わりを注ぎ足して、それでね、と切り出した。
「相談があって、来てもらったの」
ゴンドラを手に入れたのだけれど、折角だから名前をつけたい。
どんな名前がいいのか、色々と考えてみたのだけれど、どれもこれもいいような、まだまだいいものがあるような。
「人に意見をもらえれば、決められるかなって」
楽しげに語る女を、見て。男は、不機嫌な装いをやや緩め、小さく、けれどあからさまな溜息をついた。
「なぁ」
「なぁに?」
小首を傾げる女に向けられた男の視線は、訝しげというか、やや哀れみを含んでいると言うか。
百歩譲って、申し訳なさげというか。
「人選ミスだろ」
きょとり、と。目を丸くした女は、反対側に首を傾げて、思案して思案して。
少し真剣に、眉を寄せた。
「…………言われて見れば、そも、お前さんが物に名をつけると言うのも似合う話ではないな……」
「似合わなくて悪かったな」
むっとした顔で、紅茶を啜った男は、ふん、と小さく不満の声を漏らして、組んでいた足を解いた。
部屋に招かれて以降始めて、横目にではなく、向かい合う形をとって。
そういえば。と、切り出した。
「色々と傍迷惑な誰かさんが、もう一人養うとかのたまってたことがあってな」
結局、そんな余裕がどこにあるの一喝で諦めたようだと嘆息し、続ける。
「そいつの名前、あんたが好きそうだったなって」
「まぁ、なんてお名前?」
思案をしていたひと時の装いは、からりと掻き消えて。
期待に満ちた眼差しで、ほんの少し身を乗り出した女に、どこか微笑ましげな、けれど呆れにも良く似た苦笑を零して。
「フェリキタス」
「ふぇり、きたす?」
ゆっくりと反芻して、目線だけで促す。どういう意味なのかと。
すると男は、くつりと喉を鳴らし、再び机に頬杖をついて、女を見つめて。
「幸せ、だと」
感想を伺うように、小首を傾げた。
受けて、女は何度も何度も、その名を呟く。
「フェリキタス、フェリキタス……幸せ…幸せ、なのね……」
ほぅ、と。吐き出したのは、陶酔を含んだ……それでいて、全く質の違った何かに近い、溜息。
「素敵。素敵よ。決めたわ」
「そーかい」
呟いた言葉は、残り少ない紅茶のカップの内側で反響して。
ことん、と。乾いた音に、掻き消された。
「まぁ、良かったじゃねーか。おめでとさん」
それだけを告げて、早々に席を立った男を、女はとめるでもなく、見送る。
「ありがとう」
その意味をかみ締めるように、幸せな笑顔を湛えて。
うちの子と、うちの子。
棒付き飴を常備している不機嫌なお友達にご登場いただきました。
フェリキタスは一瞬本気でつくろうかなと思っていたエルフの星霊術師の名前です。
まぁ、そう、3人養って精根尽き果てているところだったので、辛辣極まりない飴さんの一喝に諦めましたが。
しかし気に入っていた響きだったので、クニークルスたんのゴンドラに移植移植。
アクエリオ終わったらお別れなんだけどね(´・ω・`)
暫くは水路でぷかぷかして楽しんでればいいと思います。
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