この間、行っていたお仕事の報告書が帰ってきていたの。
これで、私がこの都市で携わったお仕事は三つ目。
貧困街の少年少女、解雇された労働者、買われていく少女たち。
どれもこれも、悲劇を防ぐことはできたけれど、解決するには、至らない。
難しい問題なのだなって、改めて思ったわ。
私は、ね、貧しいことを、嫌なものだと思ったことはないの。
それは私が少なからず裕福だったということかしら。
けれど、買えない物を眺めて羨んだことは、何度かあったわ。
特にね、薬。婆様の体に効く薬。
あれだけは、どれだけ欲しても手が届かなくて。貧しさを痛感した。
それでも、そんな自分の状況を嫌悪しなかったのは、それもやっぱり、婆様がいたから。
『今を精一杯。それで十分。満足できないならそれはお前さんの精一杯じゃぁないのさ。』
…だったかしら。
後はまぁ、年寄りに無駄金なんざ使うもんじゃないよって言うのも、口癖みたいなもので。
そのくせ、少し余分なお金があれば、私に服の一つぐらい調えたらどうだい、なんて言って。
餓鬼に無駄金なんざ使うもんじゃないだろうって、言い返したら、笑われたわ。
私たちは、それだけで、十分だったから。
……だから、こんな風に、貧しさが引き起こす犯罪に携わるのは、なんだか、物悲しいと思う。
そこまで追い詰められる前に、救いがあればって、そんな気持ち。
人買いに関しては、残念ながら気持ち以前の問題なのだけれど。
家族の絆や、大きな決意を踏み躙る存在なんて、嫌いよ。
欠片とはいえ、関わって、排除できたことは幸運だと思う。
潜入を試みようとしている人たちには、どうか武運をと、願うばかり。
さぁ、私もまた、お仕事に行かないと。
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