忍者ブログ

11

1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
□    [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

大丈夫。大丈夫。大丈夫。

まるで、呪文みたい。

 薄暗い部屋の中で、女が何かを書き綴っている。
 その筆圧は異常に強く、がりがりと音を立て、机が削られる音がしていた。
 紙は歪んでぐしゃぐしゃになっているというのに、女は省みることなく筆を走らせた。
 歪な文字が綴り、書き上げた瞬間。女は小さく息を吐いた。

 深呼吸。何度も、繰り返して、昂ぶった気持ちを落ち着ける。
「大丈夫よ。きっと」
 呟いた唇は乾いていた。嘆く色が濃くなる。
 どうして。
 音のない二言目。憤りがよぎる。
 ふるふると、頭を振って、掻き消したのは。
 瑣末な、瑣末な、不安。
「大丈夫よ。大丈夫」
 紡ぐごとに、笑みが浮かぶ。
 だが、柔らかで穏やかなそれとは対照的に、紙に走ったインクをなぞる指先は、きつく強張っている。
 ぎり、と、爪を立てて。唇を噛み締めた。
 溢れてしまいそうな不安は、彼女が今まで経験したことのない感情だった。
 大切な、仲のよい、大好きな――そんな人間は多く居たが、彼らは皆、無縁だったのだ。
 命に関わる危険とは。
 抱くまでもない不安。祈るまでもない無事。
 その『今まで』が、今は、ない。
「大丈夫よ」
 しきりに、ただ同じ単語ばかりを繰り返した彼女は、やがて撫で付けていた紙をぐしゃりと握り締めて、机に伏した。
「大丈夫に決まってるじゃない」
 不安など。祈りなど。
 意味はない。
「だって、私の大切な人たちだもの」
 溢れそうなものを、『今まで』で、閉じ込めて。
 彼女は少しだけ、眠ることにした。
PR
Name

Title

Mailadress

URL

Font Color
Normal   White
Comment

Password
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

忍者ブログ/[PR]

Template by coconuts
プロフィール
HN:
喪と石
性別:
女性
職業:
エンドブレイカー
自己紹介:
喪:クニークルス。喪娘
石:センテリェオ。末子
飴と花も同背後。
裏舞台だけの、知り合い
リンク
カテゴリー
最新記事
アーカイブ